これからの「セルフメディケーション」を考える
1. 社会状況とWell-being
現在、社会状況は大きく変化しています。
AIやデジタル技術の進展により、利便性が向上する一方で、情報過多や情報リテラシーの問題、さらに孤立感などの新たらしい課題が顕在化してきています。
さらに、課題先進国である日本の少子超高齢社会では、高齢者人口の増加に伴い、介護.医療のニーズが拡大しています。
このような新しい変化に伴い、ストレスや不安、睡眠不足など心身の負担が増加する社会にもなってきています。
さて、このような社会状況の変化のなかで、健康志向の高まりやストレス対策への関心の増加、さらには自然由来製品への需要が拡大し、セルフケア・セルフメディケーション、Well-beingへの関心の高まっています。
世界保健機構(World Health Organization:WHO)が提唱するセルフケアの概念を踏まえ、セルフケア・セルフメディケーションおよびWell-beingの向上をわたくしたちは、どのように進めていけばよいでしょうか。
Fig.1にありますように、世界保健機関(World Health Organization:WHO)が「全ての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的とした活動の中で、1998年に“セルフケア・セルフメディケーション”を提唱しました1)。セルフケアとは、「健康を確立し、維持し、病気を予防し、対処するために人々が自分自身のために行うこと」と定義され、セルフメディケーションは、セルフケアの一つの要素です。
【セルフケアのポイント】
●公衆衛生(一人一人の衛生管理も含む)
●栄養(食べたものの種類と質)
●生活習慣(日常生活活動、スポーツ、レジャーなど)
●環境要因(生活条件、社会習慣など)
●社会経済的要因(所得水準、文化的信条など)
●セルフメディケーション
つまり、世界中のみんなの健康を維持するためには、一人一人が自分の生活や周りを見つめ直し、健康を確立し、維持し、病気を予防し、対処するために、自分自身のセルフケアを行いましょう!という概念です。
このWHOのセルフケアを推進するために、本邦は健康政策として、2013年閣議決定された日本再興戦略に盛り込まれているセルフメディケーションは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義されました2)。
さらに、健康日本21、登録販売者のシステムが構築され、軽度の疾病に対しては一般用医薬品(over-the counter: OTC)などを使って手当てすること、広義には一次予防に向けたサプリメントや健康食品の適正使用も含まれると考えられます。
このようにセルフケアが上位概念として、運動・栄養・睡眠など生活習慣や、OTC医薬品の適正使用を啓蒙するセルフメディケーションが、Well-being・健康寿命の延伸に繋がるという考え方です。
さらに、お話を進めます。
このようにWHOの健康の定義が、Well-beingの基盤となる概念です。
そして、Well-beingとは「身体的・精神的・社会的に満たされ、自分らしく充実した生活を送ることができる状態」を意味します。
これまでのWell-beingは、身体的健康(Physical Well-being)、精神的健康(Mental Well-being)、社会的健康(Social Well-being)でしたが、近年は、感情的幸福(Emotional Well-being)、生活の質(Quality of LifeQOL)を含む広い概念として用いられています(Fig.3)。
2. セルフメディケーションの歴史
このような世界の活動の中で、日本ではどのように歩んできたかをお話しします。
まず、セルフメディケーションを行いましょう!それは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」ことです!と言われても、何をどうしたらよいか、よくわからない場合が多いと思います。
そこで、厚生労働省は、日本のニーズに応じた役割設定と消費者をどのようにサポートするか?という観点から、地域で活躍する「薬剤師」と新しく制度を立ち上げた「登録販売者」が、皆さまを支援できるように体制を整え、さらに2025年3月からは「健康マイスター」制度も始まりました。
また、歴史を遡りますと、元禄3年(1690年)富山十万石の二代目藩主・前田正甫の「おきぐすり」の発祥に辿り着きます。それは、参勤で江戸城に登城したとき、福島の岩代三春城主・秋田河内守が腹痛を起こし、苦しむのを見て、印籠から「反魂丹」を取り出して飲ませたところ、たちまち平癒した光景を目の当たりにした諸国の藩主たちは、その薬効に驚き、各自の領内で「反魂丹」を売り広めてくれるよう正甫公に頼んだと伝えられています。この事件が「おきぐすり」(配置販売業)の発祥とされています。
さらに、正甫公は、領地から出て全国どこででも商売ができる「他領商売勝手」を発布。同時に富山城下の薬種商・松井屋源右衛門にくすりを調製させ、八重崎屋源六に依頼して諸国を行商させました。源六は、「用を先に利を後にせよ」という正甫公の精神に従い、良家の子弟の中から身体強健、品行方正な者を選び、各地の大庄屋を巡ってくすりを配置させました。そして、毎年周期的に巡回して未使用の残品を引き取り、新品と置き換え、服用した薬に対してのみ謝礼金を受け取ることにしました。こうして、現在のクレジットとリース制を一緒にしたような「先用後利」の画期的な販売システムが登場したのです。
また、文武天皇の大宝元年(701年)に大宝律令とともに、医療の制度も発布され、この制度に従って曲薬寮を設け、薬園師、薬園生などの官が置かれ学生の教育やくすりの研究が行われました3)。
このように、日本の「セルフメディケーション」は、長い歴史の中で、「健康は自分で守る」歴史は積み重ねられてきました3)。
そこで、
1.規則正しい生活
2.市販薬(OTC医薬品)の有効利用
3.正しい知識
4.毎日の健康と生活習慣のチェック
という4つのポイントで、「自分の健康を自分で守るため」に、現代は薬剤師や登録販売者によるサポートを活用していきましょう。
3. OTC医薬品の適正活用
「セルフメディケーション」を、地域や身近な薬剤師や登録販売者とともに推進し、新しい健康な生活を一緒に築いていきましょう。その中で、前述の「おきぐすり」とともに、日本では、OTC医薬品もきちんと育ってきました。
これらのOTC医薬品は、
①軽度な疾病に伴う症状の改善
②生活の質(QOL)の向上
③健康の維持や増進、その他保健衛生
④健康状態の自己検査
⑤生活習慣病等の疾病に伴う症状の発現の予防
に役立てることができます
そこで、是非、地域の薬局・ドラッグストアーで、薬剤師や登録販売者と一緒に、日常生活における、健康で、健やかな日常を築くために、有効にOTC医薬品を活用しましょう。
4. 薬剤師、登録販売者の役割
「楽」しい生活に「草」を足すと「薬」になります。
薬は、楽しい健やかな生活のためにあります。しかしながら、薬という字は「くすり=リスク」と、反対から読むと「リスク」ですね。
このように、食品も同様ですが、ご自分の体の中に取り入れるものは、ご自分の体ではない「異物」ですので、必ず、薬剤師や登録販売者の指導に基づいた使い方をしてください。これにより、リスクを最小限に、または回避することができます。
例えば、ご飯を食べると「体の肉や血になる」と言いますね。このように、お口から摂取した食物は、全て便や尿などから体の外に出るわけではありません。それはお薬も同じです。服用した薬が全て体から出ていくわけではありません。
「お薬」は、「吸収 → 分布 → 代謝 → 排泄」という過程をたどります。それは、体に入って(吸収)して、体中を血液を通して廻り(分布)、効果を発揮した後は分解され(代謝)、体から出ていく(排泄)という過程です。お薬はこの「吸収・分布・代謝」という段階で、いろいろな工夫がなされ、ほとんど排泄されます。
また、1日3回朝・昼・夕食後に飲むお薬を、昼食後に飲み忘れてしまった場合に、皆さまどうされますか?
1日3回きちんと飲んでいると、Fig2青線のように、お薬は体の中で、有効に効くように工夫されています。ところが、昼に飲み忘れた分を夕食後の分と一緒に飲んだ場合には、赤線のように、血液中のお薬の量が危険な範囲に入ってしまい、いろいろな有害事象が起こりやすくなります。このように、決められた量をキチンと飲むだけではなく、もし、飲み忘れた場合には、どうすれば良いかも、是非、薬剤師の相談してください。
最近は、1日2回の服用や、1日1回、1週間に1回、1ヶ月に1回の服用や使用のお薬もあります。これは、錠剤やカプセル剤にいろいろな工夫がされ、ゆっくり効果が出る仕組みなどから使い方のバリエーションが増えました。そこで、一人一人、お薬の使う時間や量や回数が違いますので、説明書に書いてあることを守りましょう。わからないことや、困ったことがあった場合には、いつでも薬剤師に相談してください。
現在、WHOのセルフケア・セルフメディケーションの推進により、リスクに関する警鐘も出ています。是非、薬剤師・登録販売者と一緒に「セルフメディケーション」を進め、健やかな日常を築いていきましょう。
5. これからのセルフメディケーション
健康的なライフスタイルを長く保ちたい!不摂生を克服して生活習慣を改善したい!
さらに、ストレスや不安、睡眠不足など心身の負担を軽減したい!
というような思いは、個人の努力のみではなかなか難しいこともあります。
一人一人が自分自身の生活や環境をよりコントロールできるように、薬剤師や登録販売者のサポートを活用しましょう。
また、生活や健康に関して、SNSなども含めたくさんの情報が発信されてきます。一体、毎日どれを信じて、何をすれば良いのか?と悩ましいことばかりと拝察いたします。
医療機関での、AIやIoTの活用も進展し、薬局やドラッグストアーも同様です。
是非、お近くの薬局、ドラッグストアーの薬剤師や登録販売者にお声をかけいただき、対面だけでなく、SNSや新しい健康情報ツールなどの使い方や判断についても相談してみましょう。
また、まず、A Iに相談する方もいらっしゃるかもしれません。
まだまだ、正確な情報のみを発信しているわけではないようですので、正確で、客観的で、再現性の高い回答が得られるようになるとよいですね。
「**は、**ですか?」と、薬剤師や登録販売者に再確認してみてください。
さらに、ご自分の健康に関して、それぞれの方の個人差が大きく、客観的評価が難しく、個人差・嗜好・効果のばらつきが大きくあります。
これからは、ウェアラブルデバイス、AI、ビッグデータ解析、生体センシングを活用して、
「感覚に、 データ」を掛け合わせ、車輪の両軸として、活用してきましょう。
心拍変動(HRV)、皮膚電気活動(EDA)、睡眠データ、呼吸・活動量などを統合し、客観的に評価できる可能性を広げていくことができるようになっています。
そこで生体センシングやAIによるデータ解析を組み合わせることで、客観的かつ再現性の高い評価手法の構築が期待されます(Fig.4)。
これにより、個人に最適化されたセルフケアやWell-being支援への応用が可能になります。
セルフメディケーションの推進にためのOTC医薬品の適正使用、客観的な判断が可能となり、さらに、One-size-fits-allではなく、一人一人の皆様に適した判断、情報の提供、生活指導やOTC医薬品の適正使用ができるようになります。
わたくしたち人間、健康や医療のことをきちんと理解されている、薬剤師・登録販売者の方々の活躍が期待されます。
是非、安全で安心な新しい時代のセルフメディケーションをWell-being・健康寿命の延伸に繋げてください。